「都立高校入試スピーキングテスト導入」反対運動を考える

9月23日の新聞で、東京都教育委員会が、都内の公立中学3年生を対象に行う英語の「スピーキングテスト」を、来春の都立高校入試に利用することを正式に決めたという発表がありました。

その後11月に入り、新聞その他ニュース番組等で、その問題点を指摘する内容が報道されており、反対を求める抗議活動がいくつも行われているようです。

今は東京都の問題かもしれませんが、これが今年度実施されると、政府が各教育機関に「グローバルな人材の育成」をうたっていることもあり、間もなく全国の自治体に広がる可能性があります。

今回はその問題点について調べてみました。

この東京都のスピーキングテストは「ESAT-J」(イーサットジェイ:English Speaking Achievement Test for Junior High School Students)という名称で、生徒は専用のタブレット端末を使って答える方式で、英文を読む、質問に英語で答える、絵を見てストーリーを組み立て英語で話す等を、録音して採点するCBT(ComputerBased Test)で、運営を任されている某大手の通信教育の会社が、東京都教育委員会監修のもと2019年から準備して作成されたものということです。

実際にその「ESAT-J」は、11月27日に行われる予定で、結果は0、4、8、12、16、20点の6段階で表され、高校入試の学力検査(満点700点)と、調査書(満点300点)に加算され、合計1020点満点になるとのことです。その点数の割合は決して高くはないですが、1点の差で合否が決まる入試においては、20点は充分大きな点数と言えます。

問題点としては、次のようなことが挙げられています。

  1. テストの運営を任されている会社が、その試験監督をネット上で「1日だけの単発のお仕事」として時給1500円で募集をしたということで、いくらマニュアル通りに監督をしても、機器の不具合など想定外のことが起きた時の対応なども考えると不安がある。 
  2.  この会社が過去に個人情報の漏洩問題を2度も起しているということで、テストを受けるために入力する個人情報の扱い、さらには会場の環境も含めて不安である。
  3. 受験生約8万人の結果は、フィリピンで採点するとのことだが、その採点方法は非公開で、どんな資格をもつ人たちなのか、どんな訓練を受けているのか、評価が分かれた時の判断はどうするのかなど何もわからないことへの不安がある。
  4. 都外の中学や都内の国私立中学に通っていて都立高校を受験する生徒や、スピーキングテスト当日に体調不良等で受験できなかった生徒に対して、都教は、来年2月に行われる英語の筆記試験で同じ得点だった生徒らのスピーキングテストの平均点を付与するとしていますが、専門家は筆記試験の得点とスピーキングテストの得点との相関関係が明確にされていないことを問題視しています。
    実際に当校の生徒さんでも、読解や筆記が苦手でもスピーキングは得意という方は何人もおられます。逆にスピーキングが苦手な方なら、ESAT-Jの受験は希望制とのことですから、あえて受けないという戦略をとることも可能ということです。

以上の点を踏まえ、英語教育における著名人たちも、特に不公平さについては危険性が大きいとして警鐘を鳴らしています。

また当事者の保護者達は、説明不足による不透明さに非常に不安を感じておられるようです。

高校入試と英検との関連

当校は英検の受験会場にもなっており、低年齢から英検を受ける方、英検対策のクラスを取る方も多いのですが、英検を受ける目的に、高校あるいは大学入試の加点を挙げる方はたくさんいらっしゃいます。

高校入試においては、主に私立の高校で、何級以上なら何点加点があるというところが多く、高校2年生レベルといわれる準2級、さらには高校卒業レベルといわれる2級を目指す中学生が多いです。

2020年の学校指導要領の改訂では、中学卒業までに英検準2級合格、高校卒業までに英検準1級合格レベルにまで生徒の英語力を引き上げることを目標とすることが盛り込まれています。

実際に2020年に改訂された中学の英語教科書には、今まで高校文法とされていた仮定法過去などが含まれています。

全国学力テストの上位常連県である福井県が、2018年に県立高校の入試で、英語を話す力を評価するためにスピーキングテストのある英検を入試の加点とする制度を導入し、3級は5点、準2級は10点、2級以上は15点で英語の学力検査の得点に加点合計し上限100点にする入試を実施しました。

2019年2020年は、英検取得による加点幅を各学校が指定する3級以上または準2級以上に5点へと見直しをしましたが、その後2021年には廃止しています。

その理由は、英語力の向上を目的に英検加点を実施したが、一定の成果が得られ、受験者の過半数が対象級を取得したというものでした。
実際に英検3級の取得率が、2016年度に46.5%だったものが、2019年度には61.4%に向上したとのことです。

日本の課題であるグローバルな人材の育成には、英語力、特に話す力の向上は必須ではあります。

そのためにスピーキングテストの実施が検討されるのも当然ではありますが、今回の東京都の問題を考えると、様々な不安要素や不明瞭な点をクリアにした上で、福井県の事例なども考え、どのような方法が良いのか、慎重に検討したうえで実施して頂きたいと切に願います。

(参考:東洋経済新聞11月5日・朝日新聞9月23日)

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